会社を一時的に休む「休眠」のすべて:手続きから注意点まで

はじめに―会社を休ませるという選択

こんにちは!税理士の井上です。

会社を一時的に休む「休眠」は、事業の引き継ぎ、経営者の病気、景気の悪化など、様々な理由で選ばれる大切な経営判断です。これは、事業を完全にやめる「廃業」とは違います。

このコラムでは、よくある勘違いを解きながら、会社を休眠させるための正しい手続き、法律上の義務、そして知っておくべきリスクについて、税務署などの情報を元に詳しく解説します。

休眠の手続きは、税務署、法務局、年金事務所など、複数の機関にまたがります。この複雑さが、手続きの全体像を見失う原因になりがちです。このコラムが、経営者の皆さんが最適な判断を下すための確かな情報になることを願っています。

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休眠のメリット

  • 事業再開がしやすい: 廃業よりも手続きが簡単で、一度取った許可や認可をまた取り直す手間が省けることが多いです。
  • 会社を維持できる: 会社という形を保ったままなので、将来、事業を引き継いだり、売却したり、個人事業主になったりする選択肢を残せます。
  • 税金が安くなることも: 事業を休止すると、法人税はかかりません。条件によっては、会社の住民税の一部(均等割)が免除されたり、安くなったりする可能性もあります。

休眠のデメリットとリスク

  • 義務は残る: 会社そのものは残っているので、休眠中も税金の申告や役員の変更登記など、会社としての義務は続きます。
  • 維持費がかかる: 登記費用や固定資産税など、会社を維持するための費用は払い続けなければなりません。
  • 借金は消えない: もし会社の代表者が借金の保証人になっている場合、休眠しても借金がなくなるわけではありません。銀行などからの返済請求は止まりません。
  • 罰則の可能性: 最も大きなリスクは、義務を怠ると「みなし解散」として会社が解散させられたり、「過料」という罰金を科されたりする可能性があることです。
目次

「休眠」「廃業」「みなし解散」の決定的な違い

会社を「やめる」という時、経営者が選ぶのは主に「休眠」「廃業」「みなし解散」の3つです。これらはよく似ていると思われがちですが、法律上の意味も、実際の手続きもまったく違います。この3つの違いを正しく理解することは、それぞれの選択がもたらす義務、費用、そして将来の選択肢を知る上で欠かせません。

休眠(休業)とは?

「休眠」という言葉は、主に2つの意味で使われます。

1つ目は、税金上の「休業」です。これは、事業を休むことを税務署などに「異動届出書」という書類で伝えた状態のことです。この手続きは、あくまで税金上の状態を変えるもので、会社そのものがなくなるわけではありません。将来事業を再開する可能性がある場合に選ばれる方法です。

もう1つは、会社法上の「休眠会社」です。これは、事業をしているかどうかにかかわらず、最後に会社の登記手続きをしてから12年が過ぎた株式会社を指します。この定義は、会社が法律で定められた義務(役員の変更登記など)を怠ったことに基づいています。

つまり、税務署にきちんと休業届を出していても、登記の手続きを忘れてしまうと、「休眠会社」に当てはまってしまうのです。この2つの意味は、違う法律と違う役所が管轄しているため、片方の手続きだけでは不十分です。両方の義務を理解して対応することが大切です。

廃業(解散・清算)とは?

廃業とは、事業を完全に終わりにして、会社という存在を法律上なくすことを指します。これには、株主総会での解散の決定、官報での告知、借金や財産の整理といった一連の作業が必要となります。

休眠が「活動の一時停止」であるのに対し、廃業は「事業の終わり」を意味します。一度廃業すると、会社はなくなってしまうため、もしまた事業を始めたい場合は、会社を設立するところからやり直す必要があります。休眠と比べて、手続きは複雑で、費用がかかります。

関連記事:【会社休眠】事業を一時停止する「休眠」とは?廃業との違いと手続きを解説  |ほまれ税理士法人

みなし解散とは?

「みなし解散」とは、会社が法律で決められた義務を守らなかった場合に、法務局が強制的に会社を解散させてしまうことです。

具体的には、最後の登記から12年以上経った会社に対して、法務大臣が「まだ事業を続けているなら、2ヶ月以内に届け出てください」と官報という国の新聞で知らせます。この期間内に何も手続きをしないと、法務局の判断で会社が解散したものとみなされます。

この制度があるのは、実体のない会社が登記簿に残り続けると信用がなくなってしまうことや、悪いことをする人に利用されてしまうのを防ぐためです。

たとえ税務署に休業の届け出をきちんとしていても、会社の登記に関する義務を怠ると、この「みなし解散」というリスクにつながるため、経営者は見過ごさないように注意が必要です。


休眠・廃業・みなし解散の比較

休眠(休業)廃業(解散・清算)みなし解散
法的根拠税務署等への届出、会社法会社法、商業登記法会社法第472条
法的状態法人格は存続法人格は消滅法人格は解散(清算段階へ移行)
清算の必要性なしあり(必須)あり(必須)
債務の扱い債務・連帯保証は継続債務を整理し消滅(原則)債務は継続
維持コスト発生する(登記費用、固定資産税等)ほぼ発生しない発生する(清算手続き費用等)
事業再開の可否容易に可能不可能(再設立が必要)継続手続きにより可能(3年以内)
主な手続き異動届出書提出解散決議、清算人選任、官報公告、清算手続き、清算結了登記官報公告、通知、届出・登記の有無で判断

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休眠手続きを徹底解説―まずは税務署への届出から

「休眠届」という書類はありません

「休眠届」という名前の書類を探す方が多いのですが、実は国税庁のウェブサイトや実際の税務署には、この名前の書類はありません。事業を休むことを知らせるには、「異動届出書」を使うのが正しい手続きです。この書類は、会社名や住所が変わった時など、さまざまな変更をまとめて届け出るために作られています。

書き方のポイントは以下の通りです。

  • 「異動事項等」の欄: ここに「休業」と、はっきりと書きます。これで、税務署に「事業を一時的にやめます」という意思が正確に伝わります。
  • 「異動年月日」の欄: 事業を休む開始日を記入します。いつから休業したかが明確になります。
  • 関与税理士の欄: もし税理士が代わりに行う場合は、その名前や事務所の場所を記入する欄があります。
  • 添付書類: 休業の届出には、原則として必要な書類はありません。しかし、休業した事実を証明できる書類があれば、つけておくことが勧められる場合もあります。

この「異動届出書」を出すことで、税務署は会社を「廃業」ではなく、「一時的に事業活動を停止した」と認識してくれます。この手続きの汎用性は、税務署が休業を特別なことではなく、通常の「変更」の一つとして見ていることを示しています。

提出方法と注意点

税務署へ「異動届出書」を出すには、主に3つの方法があります。

1. 書面で出す

  • 窓口: 税務署の窓口に直接持っていく方法です。
  • 時間外収受箱: 税務署が開いていない日でも、備え付けの箱に書類を入れることで提出できます。
  • 郵送: 郵便で送る方法です。消印の日付が提出日になります。

2. 電子申告(e-Tax)で出す

国税庁のウェブサイトからオンラインで提出する方法です。場所や時間を選ばず手続きができるので、一番手軽な方法とされています。

注意点

2025年1月からは、書面で書類を出した場合、控えに受付印を押してもらうことができなくなりました。そのため、書面で提出する際は、自分で控えを用意し、いつ出したかを記録・管理しておく必要があります。手続きが効率的になる一方で、会社側で記録をしっかり管理することが求められるようになりました。

提出先と時期

「異動届出書」は、会社がある場所を管轄する税務署長に提出します。提出の期限は特に決められていませんが、速やかに提出することがおすすめです。

見落としがちな手続き―税務署以外への届け出

会社の休眠手続きは、税務署への届け出だけでは終わりません。税務署の手続きを済ませても、そのままにしておくと、思わぬ費用やリスクが発生する可能性があります。これは、それぞれの役所が独立した法律に基づいて、異なる義務を定めているからです。

地方税事務所・市区町村役場への届出

会社の住民税は、都道府県民税と市町村民税という地方税です。この税金には、利益に応じて決まる「法人税割」と、利益が出ていなくても一律にかかる「均等割」があります。

休眠中は利益がないので「法人税割」はかかりませんが、「均等割」は払い続けなければなりません。「均等割」もかからないようにするためには、地方自治体にも必ず休業の届出を出すことが必要です。これをしないと、毎年数万円の税金がかかってしまいます。

方法は、税務署と同じように、「異動届出書」に休業する旨を書いて提出します。提出先は、都道府県税事務所と市区町村役場の両方です。

自治体によって違うルール

均等割を免除・減額するルールは、住んでいる自治体によって大きく異なります。

  • 対応の違い: 「全額免除」「半額減額」「減額なし」など、対応が分かれます。
  • 追加の申請が必要な場合: 多くの自治体では、「均等割減免申請書」という別の書類を出す必要があります。
  • 対象が決まっている場合: 多くの自治体で、利益を目的としないNPO法人などが主な対象となり、一般の会社は対象外になるケースが多いです。
  • 後日、調査が入る場合: 自治体によっては、本当に事業を休んでいるか確認するために、実際に会社を調べに来ることがあります。

このように、国が決めた手続きだけでは完了しないのが、この地方税の手続きの難しいところです。そのため、休眠を考えている方は、ご自身の自治体のウェブサイトや窓口で、均等割の減免の条件や手続きを正確に確認する必要があります。

社会保険・労働保険の手続き

従業員を雇っていた会社が休眠する場合、社会保険や労働保険に関する以下の届出も必ず行わなければなりません。

  • 年金事務所: 「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」という書類を出します。
  • ハローワーク: 「雇用保険適用事業所廃止届」と、従業員がやめたことを知らせる「資格喪失届」を出します。
  • 労働基準監督署: 「労働保険確定保険料申告書」を出します。

これらの手続きは、今従業員がいなくても、過去に雇っていたことがある場合は必要になることがあります。これらの届け出を怠ることは、手続き上の義務違反だけでなく、従業員がきちんと社会保障を受けられるようにする責任を放棄することになり、後々法律上の問題に発展するリスクがあります。

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会社が休眠中に課される義務と費用

会社が休眠した後も、会社そのものが存在する限り、いくつかの大事な義務と、それに伴う費用が発生し続けます。これらの義務を無視してそのままにしておくと、将来事業を再開するのが難しくなったり、思いがけない罰則を受けたりなど、大きなリスクにつながります。

税金の申告は続ける義務がある

休眠中の会社は、事業を停止しているため、利益は出ず、法人税は原則としてかかりません。しかし、だからといって税金の申告をしなくていいわけではありません。休眠中でも、法人税や会社の住民税の確定申告は、毎年必ず行う義務です。

この申告を続けることは、将来事業を再開する上でとても大切です。特に「青色申告」の承認を受けている会社の場合、毎年確定申告書を出さないと、その承認が取り消されてしまいます。青色申告には、赤字を翌年以降に持ち越せるなど、事業再開後の税金の負担を減らせる大きなメリットがあります。2期続けて申告を怠ると、この承認が取り消されてしまうので注意が必要です。

休眠中の確定申告は、書類に「休業中」と書いて、利益がゼロであると申告すれば大丈夫です。ただし、休眠中の銀行口座にわずかな利息が入るだけでも、「収益事業」と見なされて、住民税の均等割が免除されなかったり、申告の義務が発生したりするリスクも指摘されています。

法律で決められた義務と維持費用も続く

会社が続いている以上、休眠中でも会社法に基づく登記の義務は続きます。

役員の変更登記を忘れない

株式会社の場合、取締役や監査役には最長で10年の任期があります。休眠中でも、この任期が終われば、役員を続けさせる手続き(重任)などを行い、法務局に登記しなければなりません。この手続きを任期が終わってから2週間以内にしないと、100万円以下の罰金(過料)を科される可能性があります。

みなし解散のリスク

役員の変更登記を長期間怠り、最後の登記から12年が過ぎた株式会社は、法務局によって「みなし解散」の対象になります。この場合、法務大臣からのお知らせや通知の後、2ヶ月以内に「事業をやめていない」という届け出や登記をしなければ、法務局の判断で解散させられてしまいます。

この制度は、単なる罰則ではありません。実体のない会社が登記簿に残り続けることで信用が失われたり、犯罪に悪用されたりするのを防ぐための、健全な商取引を守るための仕組みです。休眠を選ぶ経営者は、税金の申告義務と会社の登記義務という2つの義務を理解し、両方に対応しなければなりません。

その他に続く維持費用

会社が休眠中でも、会社が不動産を持っている場合は、固定資産税を払い続けなければなりません。また、事業で使っていた事務所などをそのままにしている場合は、家賃も払い続けることになります。

会社の銀行口座については、10年以上お金の出し入れがないと「休眠預金」として、NPOなど民間の団体で使われる対象となります。ただし、預金を引き出す権利がなくなるわけではなく、銀行で手続きをすればいつでも引き出せます。

事業再開への道筋

会社の休眠は、あくまでも「また事業を始めること」を前提とした一時的な措置です。適切な手続きを済ませていれば、事業の再開は比較的簡単に行うことができます。

事業を再開する手続きは簡単

休眠状態から事業を再開するのは、基本的に難しくありません。国税庁、地方税事務所、市区町村役場に「異動届出書」を提出し、「事業を再開します」という内容を記載するだけで済みます。

もし従業員を再び雇う場合は、新たに「給与を支払う事務所を開設しました」という届出を税務署に出す必要があります。

休眠中の許認可はどうなる?

会社が休眠しても会社そのものは残るので、事業を再開する時に、一度取った許認可をまた取り直す手間が省けるのが大きなメリットです。例えば、宅建業の免許など、事業に必要な許認可を返さずにそのままにしておける場合が多いです。

ただし、許認可によっては、休眠中でも更新が必要だったり、事業を再開する時に別の届け出が必要だったりすることもあるため、個別に確認することが大切です。

休眠中の経理と申告の大切さ

休眠中でも、毎年きちんと税金の申告を行うことで、事業を再開する時の最初の残高がはっきりし、スムーズに事業を始められます。

休眠中に、わずかな活動(たとえば、売掛金の回収や買掛金の支払いなど)があった場合でも、そのお金の流れを記録しておくことが必須です。これは、休眠を完全に「活動ゼロ」の状態に保ち、将来事業を再開する時に経理で混乱しないようにするためにも大切です。

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まとめとアドバイス

会社の休眠は、ただ事業を一時的にやめるだけではありません。それは、将来の事業再開という選択肢を残すための戦略的な決断であり、その裏には多くの義務とリスクが隠されています。

多くの経営者の方が「休眠すれば義務がなくなる」と思いがちですが、これは大きな間違いです。この誤解が、「みなし解散」や罰金、そして将来の税金の負担増といった深刻な結果を招く主な原因となっています。

これまで見てきたように、休眠には、税務署への「異動届出書」の提出をはじめ、地方税事務所、社会保険、そして法務局など、複数の役所での手続きが必要です。特に、税務署への手続きを終えても、会社の登記に関する義務は続くという二つの構造を理解することが、リスクを避けるためのカギになります。

休眠チェックリスト

以下に、休眠を考えている方や、すでに休眠中の経営者が、ご自身の状況を確認するためのチェックリストを作りました。これを活用して、手続き漏れがないか確認しましょう。

項目確認事項
税務署国税庁へ「異動届出書」を提出
地方税都道府県税事務所・市区町村役場へ「異動届出書」を提出
均等割均等割の減免・免除要件を自治体に確認し、別途申請が必要か確認
社会保険従業員がいる(いた)場合、社会保険・労働保険の手続き
税務申告営業活動がなくても毎年確定申告を行う
登記役員の任期を確認し、登記手続きを計画する。
維持コスト固定資産税などの維持コストを認識し、支払い計画を立てる。
債務代表者個人の連帯保証など、債務の状況を確認
事業再開再開の見込みはどの程度か、破産・廃業も選択肢として検討したか?

お困りの際は、私たちにご相談ください

もしチェックリストに未確認の項目があったり、休眠と廃業のどちらが良いか迷ったりしたら、一人で悩まず、ぜひ私たちほまれ税理士法人にご相談ください。

あなたの会社の状況や今後のご希望をじっくりお聞きし、リスクを最小限に抑えながら、一番良い道をご提案させていただきます。

休眠は、決して「後ろ向き」な決断ではありません。次のスタートへ向かうための大切な「戦略」です。私たちは、あなたのその決断を全力でサポートします。どんなことでも、お気軽にお声がけください。

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この記事を書いた人

税理士/近畿税理士会所属/税理士登録年2005年/登録番号102807/会計システムの開発エンジニアとしてキャリアをスタート。その後、大阪市内の税理士法人での勤務を経て2005年に税理士として登録し、個人事務所を開業。法人化などを経て、現在はほまれ税理士法人の代表を務める。 「後世に誇れる仕事をする」を理念に、これまで2,000社以上の顧問先を支援。企業のライフステージに合わせた総合的なコンサルティングを提供している。

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