こんにちは!税理士の井上です。
「ある日、突然税務署から電話が来た…」
経営者にとって、税務調査はプレッシャーに感じますよね。「この調査、本当に断れないのだろうか?」という疑問を抱く方もいるかもしれません。
結論から言えば、税務調査を正当な理由なく拒否することはできません。 拒否した場合は、法律(国税通則法)に基づく罰則の対象となります。
この記事では、
- 税務調査を拒否できない法的根拠
- もし拒否した場合の具体的な罰則
- あなたが持つ権利(調査日程の調整など)
- 税理士の視点から見た正しい対応と対策
を丁寧に解説します。
この記事をお読みいただければ、税務調査に臨んでも慌てず冷静に対応するための知識が身につくはずです。
税務調査の拒否は「法律上不可能」
前述の通り、税務調査を「正当な理由なく拒否すること」は、法律上できません。
なぜなら税務調査は税務署の単なるお願いではなく、法律に基づいて行われる正式な行政手続きだからです。
税務調査官の調査活動は、「質問検査権(しつもんけんさけん)」という法律で認められた権限に基づいています。
この権限は「国税通則法」という法律に規定されており、税務署の職員は調査が必要な場合に納税者や取引先などに対し、以下の行為を行うことができるとされています。
- 関連する事柄について質問する
- 会社の帳簿や書類などをチェックする
- それらの書類を見せたり、提出させたりする
上記のような質問検査権があるからこそ、税務調査は単なるお願いではなく、法的な強制力を持つ手続きとなるのです。これは、憲法で定められた「納税の義務」を正しく実現するために国に与えられた権限だといえます。
税務署が持つ「質問検査権」と納税者の「受忍義務」
税務署の職員に「質問検査権」という強い権限があるということは、その裏側で、納税者側にも調査に協力する義務が課せられていることになります。これを「受忍義務(じゅにんぎむ)」と呼びます。
この「受忍義務」という言葉は、法律の条文に直接書かれているわけではありません。しかし、もし正当な理由なく税務調査を拒否したり、調査を邪魔したりすると、法律に基づいて罰則を受けることが決まっています。
この罰則規定があるため、納税者は調査を拒否せずに受け入れ、協力しなければならないと、法的に解釈されているのです。
つまり、調査官の質問に正直に答え、求められた帳簿や書類を提出することは、納税者にとって法律上の義務だといえます。
「任意調査」と「強制調査」の違いとは
税務調査には、裁判所の許可(令状)を得て行われる「強制調査」と、税務署が行う一般的な「任意調査」の2種類があり、ほとんどの調査は後者です。
この「任意」という言葉を聞くと、「断れるのではないか?」と思いがちですが、これは誤解です。ここでの「任意」とは、あくまで「裁判所の令状なしで行われる」という意味に過ぎません。
確かに、調査官が無理やり書類を押収したりはできません。しかし、法律に基づく「質問検査権」と、納税者の「受忍義務」があるため、調査への協力を拒否すると罰則が適用されるのです。
したがって、任意調査は「断る選択肢がない、事実上の強制調査」と理解しておくのが正しいです。
| 任意調査 | 強制調査 | |
| 担当部署 | 主に税務署、国税局調査部など | 国税局査察部 |
| 法的根拠 | 国税通則法「質問検査権」 | 裁判所が発付する「令状」 |
| 令状の要否 | 不要 | 必要 |
| 対象 | 一般的な法人・個人事業主 | 脱税額が大きく悪質と疑われる事案 |
| 拒否の可否 | 事実上不可能(罰則あり) | 絶対に不可能 |
| 特徴 | 原則、事前通知がある。納税者の協力のもとで行われる。 | 予告なく突然行われ、証拠物件は強制的に押収される。 |
調査を拒否・妨害した場合の2つのペナルティ
税務調査を正当な理由なく拒否したり、調査を邪魔したりする行為には、「刑事罰」と「行政罰」という2種類のペナルティが科される可能性があります。これらは単なる金銭的な負担にとどまらず、事業の存続や個人の社会的信用にまで影響を及ぼす問題です。
刑事罰:「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」
国税通則法第128条には、「質問検査権」に対する違反行為への罰則が明確に定められています。具体的には、以下の行為を行った者は「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処されるとされています。
- 調査官の質問に対し答弁しない、または嘘の答弁をする
- 帳簿書類などのチェックを拒む、邪魔する、または逃れる
- 嘘の記載をした帳簿書類を見せたり、提出したりする
重要なのは、これが交通違反のような行政上の制裁ではなく、「刑事罰」であるという点です。つまり、この規定によって有罪判決を受けると「前科」がつくことになります。
前科がつくと、各種許認可の取得や金融機関からの融資、公共事業への入札参加などに支障をきたす可能性があり、罰金額以上に深刻な社会的・経済的ダメージを受けるリスクを伴います。
行政罰:意図的な隠蔽と見なされれば「重加算税(最大40%)」
刑事罰とは別に、税法上のペナルティとして「加算税」が課されます。税務調査の結果、税金が少なく申告されていた(申告漏れ)と指摘された場合、その内容に応じて以下の加算税が本来納めるべき税金(本税)に上乗せされます。
特に注意すべきは、調査を拒否したり、嘘の答弁をしたり、帳簿を隠したりする行為が、税額を意図的にごまかそうとした「隠蔽(いんぺい)または仮装(かそう)」と認定された場合に課される「重加算税」です。
重加算税の税率は、申告した税額が少なかった場合(過少申告)は35%、申告自体をしていなかった場合(無申告)は40%と、加算税の中で最も重いペナルティとなっています。

| 加算税の種類 | 内容 | 税率 |
| 過少申告加算税 | 申告額が本来より少なかった場合(単純ミスなど) | 10%(追加税額50万円まで) 15%(50万円を超える部分) |
| 無申告加算税 | 期限内に申告しなかった場合 | 15%(追加税額50万円まで) 20%(50万円を超える部分) |
| 重加算税 | 事実を隠蔽、仮装して過少申告した場合 | 35% |
| 重加算税(無申告) | 事実を隠蔽、仮装して申告しなかった場合 | 40% |
| 不納付加算税 | 源泉所得税などを期限内に納付しなかった場合 | 10% |
例えば、本来500万円の納税額を300万円で申告し、200万円の申告漏れが発覚したケースで比較してみましょう。
- 単純ミスと判断された場合(過少申告加算税)
- 追加本税:200万円
- 加算税:(50万円 × 10%) + (150万円 × 15%) = 27万5,000円
- 意図的な隠蔽と判断された場合(重加算税)
- 追加本税:200万円
- 加算税:200万円 × 35% = 70万円
このように、調査への非協力的な態度が「隠蔽、仮装」と見なされるだけで、ペナルティの額が42万5,000円も跳ね上がってしまうのです。
調査を拒否するとどうなる?「青色申告の取消」という重いリスク
直接的な罰則以外にも、調査を拒否すると事業運営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。その代表例が「青色申告の承認取消」です。
青色申告は、きちんと帳簿を記録・保存することを条件に、赤字を翌年以降に繰り越せる制度や、特別な控除など、税制上の多くの優遇措置が受けられる制度です。
しかし、税務調査で帳簿の提示を拒否する行為は、青色申告の大前提である「帳簿の記録・保存義務」を果たしていないと見なされます。その結果、税務署長は青色申告の承認を取り消すことができます。
承認が取り消されると、以下のような大きな問題が発生します。
- 過去に遡って優遇措置が受けられなくなり、追徴課税が発生する。
- 将来にわたって税負担が増加し、会社の資金繰りを圧迫する。
このように、調査拒否は単なる罰則だけでなく、事業継続を困難にするリスクを伴います。
判例から学ぶ「調査妨害」と認定される具体的なNG行為
法律の条文だけではイメージしにくい「調査妨害」ですが、過去の裁判例を見ることで、どのような行為が問題となるのかが具体的にわかります。安易な自己判断が深刻な事態を招く前に、判例が示すNG行為を理解しておきましょう。
質問への黙秘・虚偽答弁
調査官の質問に答えなかったり、嘘の回答をしたりする行為は、調査妨害の典型的な例です。
かつて、「調査の理由を先に説明しない限り答えない」と主張して争われた有名な裁判(荒川民商事件)では、最高裁判所が「調査の理由や必要性を具体的に説明することは、質問や検査を行うための法律上のルールではない」という判断を示しました。
この判例の結果、調査官は「客観的に見て調査が必要だ」と判断できる限り、調査を行う範囲や時期、場所について、ある程度自由に決められる権限を持っていることになります。
したがって、「理由を言わないなら答えない」という理屈は通用せず、調査妨害と見なされる可能性が高いのです。
正当な理由なき帳簿書類の提示拒否
帳簿書類の提示を正当な理由なく拒否することも、調査妨害行為です。
最高裁判所は、平成17年の判決で、帳簿の提示を拒否したことを理由とする青色申告の承認取消処分を適法と判断しています。
裁判所は、「青色申告」が納税者の正確な帳簿記録を信頼して優遇措置を与える制度である以上、その帳簿を見せることを拒否する納税者に対して承認を取り消すのは当然である、という考え方を示しました。
ここでの「正当な理由」は限定的にしか認められません。そのため、安易な帳簿の提示拒否は許されないと理解しておいた方が良いでしょう。
調査官の立入りを物理的に妨げる行為
任意調査において、調査官は強制的に事業所に立ち入ることはできません。過去には、納税者の許可なく店舗と作業場を兼ねた場所の奥にまで踏み込んだ行為が、質問検査権の範囲を超えていると判断された事例もあります。
調査はあくまで常識的に考えて許される範囲で行われるべきものです。
しかし、納税者側が腕力などを使って物理的な抵抗をすることは調査妨害にあたります。
拒否はできないが「交渉」は可能!納税者に認められた4つの権利
税務調査は拒否できないと解説してきましたが、納税者には法律で認められた正当な権利があり、これらを適切に行使することで、調査をよりスムーズかつ公正に受けることが可能です。まずはご自身に認められた4つの権利をしっかりと理解しておきましょう。
権利①:調査日程の変更を申し出る権利
税務調査は、原則として事前に電話などで通知されます。その際、調査官から希望日時を伝えられますが、納税者側の都合で日程を変更することは正当な権利として認められています。
例えば、「顧問税理士のスケジュールが合わない」「業務の繁忙期で支障が出る」「代表者が病気である」といった正当な理由があれば、日程調整を申し出ることができます。
この調整期間を有効に活用し、専門家である税理士と十分な打ち合わせを行い、調査に向けた万全の準備を整えることが重要です。
権利②:調査の目的・対象範囲の確認を求める権利
平成23年の国税通則法改正により、税務署は事前通知の際に、以下の事項を納税者に明確に伝えることが法律で定められました。
- 調査を始める日時・場所
- 調査の目的(なぜ調査が必要か)
- 調査の対象となる税金(法人税や消費税など)
- 調査の対象となる期間(通常は過去3年分など)
納税者はこれらの内容を確認し、不明な点があれば質問する権利があります。調査の目的や範囲を明確にすることで、的を絞った準備が可能になります。
権利③:税理士の立会いを求める権利
税務調査に税理士が立ち会うことは、納税者に認められた重要な権利です。
事前に税理士と顧問契約を結び、「税務代理権限証書」を税務署に提出していれば、原則として事前通知はまず税理士に対して行われます。
経験豊富な税理士が立ち会うことで、以下のようなメリットが得られます。
- 調査官との専門的なやり取りをサポートしてくれる
- 調査官の指摘に対し、法的な根拠に基づいて反論・交渉してくれる
- 調査が法令に従って適正に行われているかをチェックしてくれる
税理士は、納税者の権利を守り、精神的な負担を軽減するための強い味方となります。
権利④:調査終了時に結果説明を受ける権利
調査が終了した際の手続きも、法律で定められています。
- もし調査の結果、申告内容に問題がなかった場合は、その旨が通知されます。これを「申告是認(しんこくぜにん)」といいます。
- 一方で、申告漏れなどの間違いが見つかった場合、調査官は追徴課税(更正処分など)を行う前に、納税者に対してその内容(指摘された間違い、理由、金額など)を説明する義務があります。
納税者はこの説明をしっかりと受け、内容を十分に検討した上で、次のステップに進みます。指摘に納得できれば修正申告書を提出し、納得できなければ不服を申し立てることになります。
【実践】税務調査の通知から終了までの正しい対応フロー
税務調査の連絡を受けると誰でも動揺するものですが、一連の流れと各段階でやるべきことを知っておけば、冷静に対処できます。ここでは、通知から調査終了までの理想的な対応フローを5つのステップで解説します。
Step 1: 税務署からの事前通知への初期対応
事前通知は、多くの場合、電話でかかってきます。電話を受けたら、まずは慌てずに以下の情報をメモしましょう。
- 税務署名、部署名、担当調査官の氏名
- 調査の目的、対象となる税金(税目)、対象期間
その場ですぐに回答せず、「顧問税理士と相談の上、改めてこちらからご連絡します」と伝えて、一旦電話を終えると良いでしょう。
Step 2: 税理士への迅速な連絡と戦略会議
事前通知を受けたら、すぐに顧問税理士に連絡してください。
税務調査に強い税理士であれば、この段階から納税者の代理人として税務署との交渉を開始します。税理士は、専門的な知見に基づき、以下の活動を通じて調査に向けた戦略を立ててくれます。
- 日程調整の交渉
- 調査で論点となりそうな項目の予測
- 準備すべき資料の整理
税務調査の対応でお困りの方は、ぜひほまれ税理士法人へご相談ください。
Step 3: 指摘されやすい項目の事前確認と資料準備
税理士と打ち合わせの上、調査対象期間(通常3~5年分)の帳簿書類や原始記録を準備します。主な準備資料は、総勘定元帳、仕訳帳、請求書・領収書、契約書、預金通帳、議事録などです。
Step 4: 調査当日の冷静な質疑応答と立ち振る舞い
調査当日は、税理士に主導権を任せ、納税者自身は冷静に対応することが肝心です。
調査官からの質問には聞かれたことに対してのみ、事実に基づいて簡潔に回答しましょう。推測や曖昧な発言は避けてください。
調査官に対しては、敵対的にならず、かといって卑屈にもならず、落ち着いた態度で接することが望ましいです。
Step 5: 調査後の指摘事項への対応と修正申告
実地調査が終わると、後日、調査官から調査結果の連絡があります。
指摘事項があった場合、その内容と法的根拠について税理士とともに十分に検討します。
- 指摘内容に納得できる場合は「修正申告書」を提出し、納税手続きを行います。
- もし税務署の指摘内容に法的な解釈の誤りや事実誤認があると思われる場合は、税理士を通じて見解を主張し、交渉を行います。
データで見る税務調査の実態
税務調査について漠然とした不安を抱くのではなく、国税庁が公表している客観的なデータに基づいてその実態を把握することが、冷静な対応につながります。最新の調査実績から、現在の税務調査の傾向を見ていきましょう。
法人税調査の非違割合と追徴税額の実態
国税庁が公表したデータ(令和5年度)によると、実地調査が行われた法人のうち、申告漏れなどの間違いがあった法人の割合は高い水準で推移しています。令和5年度の調査で判明した申告漏れ所得金額の総額は9,741億円に上ります。
また、注目すべきは「調査1件当たりの追徴税額」が増加傾向にあることです。これは、国税当局がKSK(国税総合管理)システムなどを活用して情報を分析し、間違いが見込まれる法人をより的確に選定して調査を行っていることを示しています。
つまり、「税務調査に選ばれた」ということは、何らかの疑わしい情報に基づいて選定された可能性があります。
近年、重点的に調査されている取引とは?
国税庁は、経済のグローバル化やデジタル化に対応するため、特定の分野に調査リソースを集中させています。近年の調査報告で、特に重要項目として挙げられているのは以下の分野です。
1 海外取引(グローバル化への対応)
海外子会社との取引価格の妥当性や、海外への資金流出に関する調査が強化されています。国際的な取引がある場合は、特にチェックが厳しくなります。
2 消費税
輸出取引による消費税の還付申告(還付金を受け取る申告)や、預かった消費税を納税しないことが問題となりやすい業種への調査が、重点的に行われています。
3 富裕層・無申告(デジタル化への対応)
インターネット取引やシェアリングエコノミーなど、税務署が所得を把握しにくい分野での無申告事案の摘発に力が入れられています。また、富裕層の資産運用に関する調査も強化されています。
まとめ:税務調査は「日頃の備え」と「信頼できる相談相手」が大切
この記事で解説した通り、税務調査を拒否することはできません。しかし法律で認められた権利を正しく理解し、専門家と一緒に準備・対応すれば、過度に恐れる必要はありません。
一番大切なのは、「調査の連絡が来てから慌てる」のではなく、「日頃から正しい会計処理と、証拠書類の管理を徹底する」ことです。
そして万が一、調査の連絡が来た時には一人で抱え込まず、すぐに税務調査に詳しい税理士に相談してください。
私たちほまれ税理士法人は、そんなあなたの「いざ」という時に一番に頼っていただける一番身近な相談相手でありたいと願っています。
私たちは単に税金の計算をするだけでなく、経営者の皆様に寄り添い、その不安を「安心」に変えるお手伝いをします。税務調査に関するどんな小さな悩みでも、どうぞお気軽にご相談ください。

