税金の時効とは
「税金を払い忘れてしまったが、いつまで請求されるのだろうか」
「時効まで待てば支払わなくて済むのでは?」といった疑問や期待を抱く方がいらっしゃるかもしれません。
法律上、税金にも「時効」という制度は存在します。
しかし、結論から申し上げると、税金の時効が成立して納税義務が自然に消滅することは、現実的ではありません。
時効の成立を待つのは極めて危険な選択
税金の時効成立を期待して滞納を続けることは、延滞税や加算税といったペナルティを増大させ、最終的には財産の差押えといった深刻な事態を招く、極めて危険な選択です。
多くの方が「時効」という言葉から、一定期間が過ぎれば借金のように支払い義務がなくなるイメージを抱きがちですが、税法上の仕組みは大きく異なります。本記事では、国税庁の資料や法律に基づき、その誤解を解き、正しい知識と対処法を専門家の視点から徹底的に解説します。
税金の時効が成立しない2つの大きな理由
なぜ、税金の時効は成立しないのでしょうか。その理由は、主に2つの法的な仕組みにあります。これらを理解することが、時効問題の核心を掴む鍵となります。
理由1:税務署は「時効の更新・完成猶予」で進行を止める
税金の時効は、税務署からの督促状の送付など、特定の事由によってその進行が止まったり(完成猶予)、期間がリセットされたり(更新)します 。税務署は滞納者に対して定期的に督促状を送付するため、納税者が何もしなければ時効のカウントは何度もリセットされ、永遠に完成しない仕組みになっているのです。
理由2:そもそも時効の種類が2つあり、混同されやすい
一般に「税金の時効」と呼ばれるものには、実は2つの異なる権利と期間が存在します。それは、税務署が税額を決定する権利(賦課権)と、決定した税金を徴収する権利(徴収権)です 。この2つは性質も期間のルールも全く異なります。
税金に関する2種類の「時効」を正しく理解する
税金の時効を正しく理解するためには、前述した「賦課権」と「徴収権」という2つの権利について、その内容と期間制限を明確に区別する必要があります。これらは国税通則法という法律で定められています。
賦課権の除斥期間|税務署が税額を決定できる期間
賦課権とは、税務署が納税者の申告内容の誤りを正したり(更正)、申告がない場合に税額を決定したり(決定)する権利のことです。この権利には行使できる期間に上限があり、これを法律上「除斥期間」と呼びます 。
この賦課権の期間制限は、国税通則法第70条に定められています 。
原則は5年
確定申告書を期限までに提出しなかった、いわゆる無申告の場合、賦課権の除斥期間は原則として法定申告期限から5年です 。つまり、税務署は過去5年分まで遡って税額を決定し、納税を求めることができます。
脱税など不正行為は7年
売上を意図的に除外したり、経費を架空計上したりするなど、「偽りその他不正の行為」によって税金を免れようとした場合、つまり脱税と判断される悪質なケースでは、除斥期間は7年に延長されます 。
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徴収権の消滅時効|税金を徴収できる期間
徴収権とは、更正や決定によって確定した税金を、税務署が納税者から取り立てる権利のことです 。この権利には「消滅時効」が定められており、国税通則法第72条で規定されています 。
原則は法定納期限から5年
国税の徴収権は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅します 。賦課権の除斥期間とは異なり、こちらは原則5年で、不正行為があっても期間は延長されません。
なぜ徴収権の時効は成立しないのか?
「5年で徴収権が消滅するのでは?」と思うかもしれませんが、そうはなりません。なぜなら、徴収権の消滅時効は、次に解説する「時効の完成猶予・更新」という制度によって、進行を止めたりリセットしたりすることが可能だからです 。
なお、徴収権の消滅時効は、納税者が「時効だ」と主張(援用)する必要がなく、時効の利益を放棄することもできないという特徴があります 。これは、税務署が時効を更新する行為もまた、絶対的な効力を持つことを意味します。
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税金の時効はこうしてリセット(更新)される
徴収権の時効が事実上成立しない最大の理由は、国税通則法第73条に定められた「時効の完成猶予及び更新」の制度にあります 。これらの制度により、徴収権の時効は成立しません。
時効がリセットされる「更新」と進行が止まる「完成猶予」
2020年4月1日に施行された改正民法の内容が税法にも準用され、「時効の中断・停止」という用語は「時効の更新・完成猶予」に改められました。
- 更新:それまで進行していた時効期間がすべてリセットされ、ゼロから再びカウントが開始されることです 。
- 完成猶予:時効のカウントダウンが一時的にストップすること。猶予される事由が終了すると、残りの期間のカウントが再開します 。
時効が更新・猶予される具体的なケース
時効の更新や完成猶予は、特別な裁判手続きなどを必要とせず、税務署の日常的な事務処理や納税者の特定の行為によって発生します。以下に代表的な例を挙げます。
督促状の送付:更新
最も一般的で強力な時効の更新事由が、督促状の送付です。
税務署が滞納者に対して督促状を発すると、その日から10日を経過した時点で時効が更新され、新たに5年のカウントが始まります 。税務署は滞納があれば機械的に督促状を送付するため、これだけで時効の成立はほぼ防がれます。
財産の差押え:完成猶予
税務署が滞納者の財産(預金、給与、不動産など)を差し押さえる(差押え)か、または他の機関によって執行されている手続きに参加して配当を要求する(交付要求)と、その手続きが完了するまで時効の完成が猶予され、完了後に新たに時効が進行します 。
納税の猶予・延納の申請:完成猶予
納税者が税務署に申請して、納税の猶予や延納(分割払い)が認められた場合、その猶予期間中は時効の進行が停止(完成猶予)します 。猶予期間が終了した翌日から、再び時効のカウントが始まります。
納税義務の承認(一部納付など):更新
納税者が税金の一部を納付したり、納税猶予の申請書を提出したりするなど、納税義務の存在を認める行為(承認)をした場合、その時点で時効は更新されます 。たとえ少額であっても、一部を納付した事実は「債務を認めた」ことになり、時効期間がリセットされるのです。
時効を待つリスク|滞納・無申告で課される重いペナルティ
時効の成立を待つことが非現実的であるだけでなく、滞納や無申告を放置することには金銭的なペナルティが伴います。本来納めるべき税金(本税)に加えて、延滞税や加算税が課され、納税額は雪だるま式に膨れ上がっていきます。
利息に相当する「延滞税」
延滞税は、法定納期限までに税金を納付しなかった場合に、遅延した日数に応じて課される、利息に相当する税金です 。納付が遅れれば遅れるほど、その額は大きくなります。
延滞税の税率(2025年9月時点)
延滞税の税率は、納期限の翌日から2か月を経過する日を境に、2段階の税率が適用されるのが特徴です。2025年(令和7年)時点の税率は以下の通りです 。
- 納期限の翌日から2か月以内:年2.4%
- 納期限の翌日から2か月経過後:年8.7%
この税率は金融情勢に応じて毎年見直されますが、2か月を超えると税率が大幅に跳ね上がる構造は変わりません。
申告義務違反に対する「加算税」
加算税は、申告を正しく行わなかったことに対する行政罰としてのペナルティです 。申告内容や状況に応じて、いくつかの種類があります。
過少申告加算税:申告額が少なかった場合
期限内に申告したものの、申告した税額が本来納めるべき額より少なかった場合に課されます。税率は、追加で納めることになった税額の10%です。ただし、その追加税額が当初の申告額と50万円のいずれか多い額を超える部分については、15%になります 。
重要なのは、税務署から調査の通知を受ける前に、自主的に修正申告をすれば、この過少申告加算税は課されないという点です 。
無申告加算税:申告自体をしなかった場合
法定申告期限までに申告をしなかった場合に課されます。
税率は、納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%です(令和6年1月1日以後が法定申告期限のものについては、300万円超の部分は30%)。
これも同様に、税務調査の通知前に自主的に期限後申告を行えば、税率は5%に大幅に軽減されます 。
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重加算税:悪質な仮装・隠蔽があった場合
申告内容に意図的な事実の隠蔽や仮装があったと判断された場合に、上記の過少申告加算税や無申告加算税に代わって課される、最も重いペナルティです 。
税率は、過少申告の場合は追加税額の35%、無申告の場合は納付すべき税額の40%と、極めて高率です。
不納付加算税:源泉徴収した税金を納めなかった場合
源泉徴収した所得税を、決められた期限までに納付しなかった場合に課されます。税率は、納付しなかった税額の10%です。これも、税務調査の通知を受ける前に自主的に納付すれば、税率は5%に軽減されます。
| 加算税の種類 | 課税される状況 | 税率 (自主的な申告の場合) | 税率 (税務調査の指摘後の場合) |
| 過少申告加算税 | 申告額が少なかった | 0% | 10%(一定額超は15%)※ |
| 無申告加算税 | 期限内に申告しなかった | 5% | 15%~30% ※ |
| 重加算税 | 悪質な仮装・隠蔽があった | – | 35%(過少申告)または40%(無申告) |
| 不納付加算税 | 源泉所得税の未納 | 5% | 10% |
※調査の事前通知を受けた後であっても、調査官が臨場して調査が開始される前に自主的に修正申告を行えば、過少申告加算税の税率が10%(または15%)から5%(または10%)に軽減される場合があります 。完全に手遅れと諦めず、速やかに対応することが重要です。
最終手段としての「滞納処分」
督促や催告に応じず、納税もされない場合、税務署は法律に基づいて強制的に税金を徴収する手続き、すなわち「滞納処分」に着手します。この手続きは、裁判所の許可を必要としない「自力執行権」に基づいて行われる強力なものです 。
督促から財産調査へ
滞納が発生すると、まず督促状が送付されます。督促状を発した日から10日を経過しても完納されない場合、法律上、税務署は財産を差し押さえることができます 。差押えに先立ち、税務署は滞納者の財産を特定するため「財産調査」を行います。この調査権限は非常に強力で、納税者の同意なく、金融機関への預金照会や勤務先への給与照会、取引先への売掛金調査などを行うことが可能です 。
財産の差押え
財産調査によって特定された財産は、差押えの対象となります。対象となる財産は、預貯金、給与、生命保険、不動産、自動車、売掛金など、金銭的価値のあるほぼすべてのものです 。
差押財産の換価(公売)と充当
差し押さえられた財産は、滞納国税に充当するために金銭に換えられます(換価)。不動産や動産などは、原則として「公売」というオークション形式で売却されます 。その売却代金から滞納税や延滞税などが支払われ、残額があれば滞納者に返還されます。

過去の税金に気づいた今、あなたが取るべき最善の行動
ここまで解説してきた通り、税金の時効を待つことには何のメリットもなく、リスクしかありません。もし過去の申告漏れや無申告に気づいたのであれば、取るべき最善の行動はただ一つです。
申告漏れ・無申告は1日でも早く自主的に手続きを
ペナルティを最小限に抑える最も効果的な方法は、税務署から指摘を受ける前に、1日でも早く自主的に正しい申告手続きを行うことです 。状況に応じて、行うべき手続きは異なります。
期限後申告:申告していなかった場合の手続き
法定申告期限までに確定申告をしていなかった場合は、「期限後申告」を行います 。
手続き自体は通常の確定申告とほぼ同じで、必要な申告書を作成し、所轄の税務署に提出(e-Tax、郵送、窓口持参)します。特別な書類が必要になるわけではありません。
修正申告:申告額が不足していた場合の手続き
一度確定申告書を提出したものの、その内容に誤りがあり、納める税金が少なかった場合には、「修正申告」を行います 。
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自主的な申告でペナルティはここまで軽減される
自主的に申告する最大のメリットは、加算税が大幅に軽減される点にあります。
- 過少申告加算税
税務調査の通知前に自主的に修正申告すれば、課税されません(0%)。 - 無申告加算税
税務調査の通知前に自主的に期限後申告すれば、税率が原則の15%(またはそれ以上)から5%に軽減されます。
どうしても一括で払えない場合の納税猶予制度
修正申告や期限後申告によって確定した税金を一括で納付することが困難な場合、「納税の猶予」という制度を利用できる可能性があります 。
災害や病気、事業の著しい損失など、特定の要件を満たす場合に、税務署に申請することで、原則1年間の納税の猶予や分割納付が認められることがあります。
この制度を利用すれば、猶予期間中の延滞税が軽減または免除されるメリットもあります。詳しくは所轄の税務署や税理士にご相談ください。
税金の時効に関するよくある質問(Q&A)
最後に、税金の時効に関してよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 自己破産をすれば税金も免除されますか?
A. いいえ、原則として免除されません。破産法上、税金(租税等の請求権)は「非免責債権」とされており、自己破産手続きによって裁判所から免責許可決定が下りても、支払い義務は残ります。滞納している税金は、破産手続きとは関係なく、納付しなければなりません。
Q. 海外にいれば時効は成立しますか?
A. いいえ、成立しません。納税義務者が海外に居住していても、時効の更新事由(督促状の送付など)は国内の最後の住所地への送達(公示送達)などで有効に成立します。
また、日本は多くの国と租税条約を結んでおり、その中には徴収共助の規定も含まれています。これにより、相手国の税務当局を通じて財産調査や税金の徴収が行われる可能性もあります。
まとめ|税金の時効に頼らず、専門家へ相談を
本記事では、税金の時効について、その仕組みと現実を詳しく解説しました。
- 税金の時効には「賦課権の除斥期間」と「徴収権の消滅時効」の2種類がある。
- 徴収権の時効は、督促状の送付など日常的な手続きで簡単に「更新」されるため、成立することは不可能。
- 時効を待つ行為は、延滞税や加算税を増大させ、最終的には財産差押えという強制処分に至るリスクを伴う。
- 最善の対処法は、税務署の指摘を受ける前に、自主的に「期限後申告」や「修正申告」を行うこと。これによりペナルティを最小限に抑えられる。
過去の申告について不安を抱えている方は、決して時効という淡い期待に頼らないでください。状況が悪化する前に、一日も早く税理士などの専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。納税者の状況に応じた最適な解決策を一緒に見つけ、問題の早期解決をサポートします。

