【税理士が解説】個人事業者の「専従者」と「家族従業員」の決定的違いとは?

【はじめに】知っていますか?個人事業者が「生計を一にする家族に支払う給料は、原則として経費にならない」というルール

こんにちは!税理士の井上です。

「忙しくなってきたから、妻に手伝ってもらって給料を払いたい」

個人事業主の方から、こういったご相談をよく受けます。しかし、残念ながら家族への給与は、税務上のルールでは原則として経費には認められていません。

なぜなら法律上、生計を共にしている家族間のお金のやり取りは、事業の経費ではなく「家計の中での移動」と見なされるからです。

個人事業主(自営業)の方が事業を拡大する際、ご家族の協力を得ることは自然な流れです。そのとき、「家族への給料は経費にできるのか?」という疑問が生まれます。

ネットで検索すると「専従者(せんじゅうしゃ)」や「家族従業員」といった言葉が出てきますが、この2つの違いは何か、どちらが正しいのか、混乱されている方も少なくありません。

この記事では、私たち税理士法人が、国の法律(所得税法)に基づいて、この問題を正確に、かつ分かりやすく解説します。

ポイントは、ただの「家族従業員」ではなく、法律で認められた「専従者」になれるかどうかです。この言葉の法的な違いと税金や社会保険での扱いがどう変わるのかを、徹底的に見ていきましょう。

目次

「事業専従者」と「家族従業員」の決定的な違いとは?

結論:「生計を一つにしているか」で決まります。

多くの人が混乱してしまうのは、言葉の定義が曖昧だからです。まず、この2つの言葉を整理しましょう。

  • 家族従業員:法律用語ではなく「家族であり、事業を手伝っている従業員」を指す、一般的な呼び方です。
  • 事業専従者:所得税法で決められた条件を満たす法的な地位を指す専門用語です。

この2つを区別し、税金や社会保険の扱いが変わる基準となるのは、事業主と「生計を一(いつ)にしているか、していないか」(=同じ財布で生活しているか)という点です。

  1. 「生計を一つにする」家族
    「事業専従者(せんじゅうしゃ)」のルールが適用されます。(※今回のテーマである、経費にするのが難しいケースです)
  2. 「生計が別の」家族
    家族であっても、「一般の従業員」として扱われます。(※他人を雇うのと同じ扱いです)

「家族なら全員、専従者になる」と勘違いされがちですが、それは間違いです。
この記事では、この「生計」という基準を軸に、ルールを整理していきます。

関連記事:「なんでも経費」は危険な誤解!個人事業主の経費の基本原則  |ほまれ税理士法人

なぜ、「一緒に暮らす家族」への給料は、原則NGなのか

家族経営の税金を理解する上で大切な「大原則」があります。

それは、法律(所得税法)が定める「生計を一(いつ)にする家族への支払いは、原則として経費にできない」というルールです。

【税理士の解説】なぜ、そんなルールがあるのか

税金の法律では、「生計を一にする家族(同じ財布で暮らす家族)」は、全体で「一つの経済単位」だと考えます。

もし、この単位の中での資金移動(夫から妻への給料など)を自由に「経費」として認めてしまうと、どうなるでしょうか? 事業主が、家族に高額な給料を払ったことにして、自分の利益を不当に少なく見せかける「所得分散」による税金逃れが可能になってしまいます。

法律は、まずこの税金逃れを防ぐために「家族内での給料は、原則として経費ではない」と厳しく決めているのです。

関連記事:自宅兼事務所の経費はどこまでOK?税理士が家事按分のすべてを徹底解説 |ほまれ税理士法人

用語整理:「専従者」と「家族従業員」の違い

この原則を理解すると、言葉の意味がハッキリします。

パターン1:「生計を一つにする」家族を雇う場合 

この家族には、原則として「経費NG」のルールが適用されます。 しかし、これでは実際に働いている家族の頑張りが報われません。そこで、法律は「特例(特別ルール)」を作りました。一定の条件を満たせば、例外的に経費にすることを認める、というものです この「特例」を受ける家族こそが、法律上の「事業専従者」なのです。

パターン2:「生計が別の」家族を雇う場合 

この家族は、そもそも「経費NG」のルールの対象外です。 したがって、特例(専従者)を使う必要もありません。彼らは、血縁関係があっても、税金上は「一般の従業員(他人)」と同じ扱いになります。その結果、彼らへの給料は、経費になります。

パターン1:「生計を一つにする」家族を雇う【事業専従者】のルール

ここからは、最も多いケースである「生計を一つにする家族」を、特例を使って「事業専従者」にするための条件と手続きを解説します。

専従者になるための「3つの共通条件」

青色申告でも白色申告でも、「事業専従者」と認められるには、以下の3つを全て満たす必要があります。

  1. 事業主と「生計を一にする」配偶者、または親族であること。
  2. その年の12月31日時点で、15歳以上であること。
  3. その年を通じて6ヶ月を超える期間、その事業に「本業として(専念して)」行っていること。

【大切】本業として(専念して)行っているとは?他の仕事はダメ?

一番の問題になるのが、3つ目の「本業として(専念して)行っている」という点です。これは「他の仕事をしてはいけない」という意味でしょうか?

法律の解釈では、原則として「他に職業がある人」はダメです。ただし、「その仕事が短時間で、事業主の仕事に支障がない場合」は例外として認められます。重要なのは、「他に収入があるか」よりも、「事業主の仕事がメインになっているか」という点です。

【青色申告の場合】青色事業専従者給与(全額経費にできる!)

生計が同じ家族への給料を経費にする上で、最も節税効果が高いのが青色申告の特例です。

  • メリット:適正な額なら「全額」経費になる 

支払った給与は下記の届出書に記載されている金額の範囲内で経費になります。
受け取った家族側は、会社員の給料と同じ「給与所得」として扱われます。

  • 手続き:「届出書」の期限に注意! 

この特例を使うには、事前の届け出が必須です。 提出期限:その年の3月15日まで(年の途中で開業・雇用した場合は2ヶ月以内)。これを出し忘れると、1円も経費にできません。

  • 税務リスク:「働きに見合った金額」か? 

全額経費にできますが「無制限」ではありません。金額が「労働の対価としてふさわしいか」が必要です。 税務調査では「もし、その仕事を他人にお願いした場合、いくら払うか?」という客観的な視点で判断されます。家族だからといって高く設定しすぎると、否認されるリスクが高くなります。

【白色申告の場合】事業専従者控除(金額に上限あり)

白色申告の場合、「給与を経費にする」のではなく、「決まった金額を控除(差し引く)」という簡易的な特例になります。

  • 控除できる金額(上限あり) 以下の金額の、いずれか低い方が控除されます。
  1. 定額:配偶者なら86万円、それ以外なら50万円
  2. 所得の上限:(事業の利益)÷(専従者の数+1)
  • 多くの人が「配偶者なら86万円引ける」と思っていますが、2の計算式による「所得の上限」があることに注意が必要です。事業の利益が少ない年は、満額の控除が受けられないことがあります。

【共通の注意点】「扶養」からは外れます 

青色でも白色でも、「専従者」として給料や控除を受けた家族は、その年、事業主の「扶養家族(配偶者控除や扶養控除)」の対象外になります。 「扶養控除(38万円など)」を捨ててでも、専従者にした方がトクかどうか、事前の計算が必要です。(※一般的に、青色申告なら専従者にする方が有利なケースが多いです)

関連記事:白色申告でも税務調査は来る!その確率と個人事業主が知るべき全知識  |ほまれ税理士法人

パターン2:「生計が別の」家族を雇う【家族従業者】のルール

ここからは、意外と見落とされがちな、もう一つの形。「生計を別にする(財布が別の)」家族を雇う場合です。

税務上の扱い:他人を雇うのと全く同じ 

前述の通り、生計が別の親族は「経費NG」ルールの対象外です。 つまり、特例など使う必要なく、一般の従業員への「給料」として経費にできます。 (※「生計が別」の定義は、別居していれば明確ですが、同居していても家計が完全に分かれていれば認められる可能性があります。ただし、証明が難しいため別居が最も確実です)

メリット:「本業として」の条件がいらない 

彼らは税務上「一般の従業員」なので、専従者のような厳しい条件(15歳以上、6ヶ月超、専ら従事など)は一切不要です。 つまり、「他に本業を持つ、別居の兄弟」に、土日だけ手伝ってもらって給料を払うことも可能です。(これは、生計が同じ家族では絶対にできないことです)

手続きとリスク 

事前の届け出は不要ですが、一般の従業員と同じく、源泉徴収などの手続きは必須です。 リスクは、「要件」ではなく「金額の妥当性」に移ります。「身内だから」と不当に高い給料を払っていないか、税務署から厳しくチェックされます。

【重要】社会保険・労働保険の扱い(専従者 vs 家族従業者)

税金以上に注意が必要なのが、保険関係です。ここを誤ると、法律違反になります。

根本的な違いは「生計が同じ家族(専従者)は、法律上の『労働者』ではない」のに対し、「生計が別の家族」は「労働者」と見なされる点です。

1. 雇用保険(失業保険)

  • 専従者:原則、加入できません。(事業主と一体と見なされるため)
  • 生計別の家族:条件(週20時間以上など)を満たせば、加入義務があります

2. 労災保険

  • 専従者:原則対象外ですが、「特別加入」という制度で任意に入ることができます。
  • 生計別の家族:「労働者」なので、1人でも雇えば加入義務があります

3. 社会保険(健康保険・厚生年金)

  • 専従者:事業主の扶養に入るか、自分で国民健康保険・国民年金に入ります。(厚生年金は不可)
  • 生計別の家族:個人事業でも、従業員(労働者)が常時5人以上になると、社会保険の強制加入となります。 

【落とし穴】 

ここで、「生計別の家族」は「労働者」としてカウントされます。 「従業員は他人3人だけだから大丈夫」と思っていても、もし「生計別の弟」を2人雇っていれば、合計5人となり、社会保険への加入義務が発生します。このカウントミスは、非常に危険です。

【図解】「専従者」と「家族従業員」、どっちが得?完全比較表

これまでの複雑なルールを、一つの表にまとめました。

あなたの家族が、「生計を一つにしている(一緒の財布)」か、「生計が別(独立している)」かで、見るべき項目が変わります。

比較項目① 生計が一緒(青色申告)② 生計が一緒(白色申告)③ 生計が別(家族従業員)
法的な立場青色事業専従者事業専従者一般の従業員(他人と同じ扱い)
給料は経費になる?なる(届出額の範囲内)定額なる(労働の対価として)
事前の手続き「届出書」が必須不要不要
「本業」である必要は?必須(他の仕事は原則NG)必須(他の仕事は原則NG)不要(副業でもOK)
扶養控除は使える?使えない使えない条件次第で使える
雇用保険(失業保険)入れない入れない入れる(条件を満たせば)
労災保険特別加入(任意)特別加入(任意)加入義務あり
社会保険(健保・年金)入れない入れない入れる(条件を満たせば)

【ケース別】税理士が教える、「専従者」と「家族従業員」の正解

ケース1:一緒に暮らす妻に、月10万円(年120万)払う場合

最も一般的なケースです。「生計を一つにする家族」にあたります。

  • 白色申告の場合:実際に120万円払っても、経費にはなりません。代わりに、最大86万円が控除されるだけです。
  • 青色申告の場合:事前に届け出をして、仕事内容に見合った金額だと認められれば、120万円全額が経費になります。

【税理士の視点】

このケースでは、青色にするだけで34万円も経費が増えます。どちらにせよ「配偶者控除(38万円)」は使えなくなりますが、あなたの税率が高いほど全額経費にできる「青色事業専従者」の方が圧倒的に有利です。

ケース2:他社で働く妻(一緒に暮らす)に、月3万円の事務を頼む場合

これが、税務調査で「否認」される(経費と認められない)リスクが最も高いパターンです。

【税理士の視点】

妻は「生計を一つにする家族」なので、経費にするには「専従者」になる必要があります。

しかし彼女には他社での「本業」があります。あなたの事業を「本業(専ら従事)」としているとは、どう見ても認められません。

【結論】

青色申告で届け出をしても、条件違反で認められません。白色申告の控除も使えません。

結果として、支払った月3万円は、単なる「家計内のお金の移動」と見なされ、1円も経費にはならないのです。

まとめ:税務調査で「ダメ!」と言われないための、証拠づくり

家族への給料は、税務調査で最も厳しくチェックされる項目の一つです。「専従者」であれ「家族従業員」であれ、実態が伴っていなければ経費として認められない(否認される)リスクがあります。

税務署に疑われないためには、他人を雇う時以上に、「客観的な証拠」を残しておくことが大切です。

  1. 契約書を作る 家族であっても、「どんな仕事で、いくら払うか」を書いた雇用契約書を必ず作りましょう。
  2. 働いた記録を残す タイムカードや業務日報で、「いつ、何をしたか」を記録します。これが、給料の金額が妥当であることの証明になります。
  3. 給料は「銀行振込」で 現金の手渡しは避け、必ず通帳に履歴が残る銀行振込にしましょう。これが一番の証拠になります。

「うちは生計一?それとも別?」「青色申告の給料はいくらが妥当?」

こうした判断は、あなたの売上や家族構成によって正解(ベストな選択)が違います。たった一つの判断ミスが将来、数百万円の追徴課税や、法律違反に繋がることもあります。ご家族と事業のためにぜひ一度、私たちほまれ税理士法人にご相談ください。

私たちは、税金と労務の専門家として、あなたの家族と事業にとって「一番手元にお金が残り、リスクが少ない方法」を一緒に考えます。初回のご相談は無料ですので、どうぞお気軽にお声がけください。

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この記事を書いた人

税理士/近畿税理士会所属/税理士登録年2005年/登録番号102807/会計システムの開発エンジニアとしてキャリアをスタート。その後、大阪市内の税理士法人での勤務を経て2005年に税理士として登録し、個人事務所を開業。法人化などを経て、現在はほまれ税理士法人の代表を務める。 「後世に誇れる仕事をする」を理念に、これまで2,000社以上の顧問先を支援。企業のライフステージに合わせた総合的なコンサルティングを提供している。

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